2022/10/07 19:59
前回取り上げたスパイク・リーの中でも個人的にもっとも影響を受けた作品Do the light thing。
差別や偏見を一つのテーマに掲げ、そこからまさに始まるポップカルチャーの礎。
一言では語り尽くせない歴史に残る大傑作だ。
最初に観た20代前半から、しばらくはストリートファッションとしてのステータスとしてこの映画を捉えていた。
まさに雑誌を読むくらいの感覚。
音楽やファッションを学ぶ為だけに観ていた。
しかしそれ以降、人種間の差別・特に黒人における歴史を学べば学ぶほど、この作品のメッセージ性の素晴らしさに改めて気付かされた。
この作品で描かれる登場人物の中には、際立ったレイシストは存在しない。
黒人の街で暮らすイタリア移民、韓国人、白人の警察官。それぞれが偏見を持ちながらも、生きる為に支え合い、尊敬する気持ちも持ち合わせている。
しかし、とるに足らない理由をきっかけに罵り合い、傷つけ合ってしまう。
スパイク・リーだからこそ描ける黒人の愚かさは全篇に描かれ、一方で日々積み重なった彼ら特有の思いや不満も、何気ない会話の節々に垣間見れる。だからと言って声高々に黒人は間違っていないと発信する訳では無い。寧ろいかに黒人が歴史に縛られ、その捌け口を罪のない別人種に向けているかを描いている。
残念ながら、白人と黒人の諍いを結果だけで判断してしまう人は多い。
この映画の結末も、実際に事件を目の当たりにした人と、それを黒人から又聞きするのでは、180度見え方が変わってしまう。
思想の違いで、解釈は自分達の都合のいいものに変わってしまうのだ。
喧騒のきっかけが黒人であろうとも、黒人は黒人を守る。それは悲しいかなアメリカが作ってしまった今も尚続く、悪い意味での連帯感だ。
そう考えると昨今起きてしまったジョージ・フロイド事件が、簡単な殺人で片付けられてはいけない問題だということが浮き彫りになる。
白人警官に警棒で首を押さえられ、無抵抗な黒人男性が死んでしまった事件。
確かにあの事件だけを切り取れば、警察官の過失である。映像が残ってる以上、擁護するのも無理だろう。
しかしながら、白人の警察官が罪のない黒人を殺したという簡単な縮図ではなく、その行動に至るまでの歴史や偏見、または蔓延る銃社会が生んだ過敏なまでの警戒心、それら全てが起こしてしまった今現在のアメリカの象徴のような気がしてならない。
皮肉なことにこの事件をきっかけに、Do the light thingは再び脚光を浴びる映画となった。
しかしそれは、これだけ時が経っても人々は何も学んでいないという裏返しに他ならない。いや寧ろSNSなどのネットの普及によって、巻き込む人間の数を考えると、余計に複雑になったと言えよう。
Do the light thingがどれだけ未来を予見していた映画なのかは分からない。
実際マルコムXのように重く伸し掛かる作品でなければ、痛烈なメッセージ性がある訳でもない。
だが、当たり前の日常に潜む狂気を、余計に脚色せず、ファッション的な要素も加えることで、非常にカジュアルに歴史を学ぶツールとして昇華している。
だからこそ映画が苦手という若者にも是非観て欲しい。
ファッションを学ぶ為にも、そこにはきっと表面的より大事なものが詰まっているから。